多様なメンバーの強みを引き出す、インクルーシブな対話術
多様なチームを率いるリーダーにとって、メンバー一人ひとりの能力を最大限に引き出すことは、チームのパフォーマンスを高め、メンバーのエンゲージメントを高める上で非常に重要です。特に、多様な背景、経験、価値観を持つメンバーが集まるチームでは、それぞれの「強み」が多岐にわたります。しかし、それらの強みが認識されず、十分に活かされないままになっているケースも少なくありません。
メンバーの強みをインクルーシブな対話を通じて引き出し、チームで共有し、活用することは、心理的安全性を高め、メンバーの貢献意欲を刺激し、最終的にチーム全体の生産性と創造性を大きく向上させます。ここでは、多様なチームメンバーの強みを見つけ、引き出し、チームの力として活用するための具体的な対話術と実践方法をご紹介します。
メンバーの強みを引き出す対話のインクルーシブな意義
なぜ、チームリーダーはメンバーの強みを積極的に引き出す必要があるのでしょうか。それは、インクルーシブなチーム文化を醸成するために不可欠だからです。
多様なチームにおいて、メンバーはそれぞれ異なるスキル、知識、経験、視点を持っています。これらはチームにとって貴重な資源ですが、これらが十分に認識されず、評価されない環境では、メンバーは「自分はここで活かされていない」と感じ、貢献意欲を失う可能性があります。また、自分の弱みが強調される文化では、新しい挑戦への意欲も削がれ、心理的安全性が損なわれてしまいます。
一方、メンバーの強みに焦点を当て、それを引き出す対話は、以下のインクルーシブな効果をもたらします。
- 自己肯定感とエンゲージメントの向上: 自分の強みがリーダーやチームに認識され、評価されることで、メンバーは自己肯定感を高め、チームへの貢献意欲を強めます。
- 心理的安全性の強化: 弱みではなく強みに焦点を当てる文化は、「自分らしくいられる」「安心して貢献できる」という感覚を醸成し、心理的安全性を高めます。
- チーム全体のパフォーマンス向上: メンバーそれぞれの強みが明確になり、それが適切に配置・活用されることで、チームとしてより高い成果を上げることが可能になります。
- 多様な視点の活用: 異なる背景を持つメンバーの多様な強みを引き出すことで、従来の枠にとらわれない発想やアプローチが生まれやすくなり、問題解決能力や創造性が向上します。
強みを見つけるための具体的な対話テクニック
メンバーの隠れた強みや、本人も気づいていない強みを引き出すためには、意識的な対話が必要です。以下に、そのための具体的なテクニックをご紹介します。
1. 過去の成功体験ややりがいを感じた瞬間について質問する
人が最も輝いている時、最も力を発揮している時は、その人の強みが自然に表れている瞬間です。過去の経験について具体的な質問を投げかけることで、本人も意識していなかった強みに気づくことがあります。
- 「これまでの仕事で、最も達成感を感じたのはどんな時ですか? その時、あなたはどのような役割を果たしましたか?」
- 「どのような種類の仕事をしている時、時間があっという間に過ぎると感じますか?」
- 「過去に困難な状況を乗り越えた経験があれば教えてください。その時、どのように考え、行動しましたか?」
これらの質問は、単なる業務内容の確認ではなく、その人がどのような状況でモチベーションが高まり、どのようなスキルや思考パターンを発揮するのかを探るためのものです。
2. 他者からのフィードバックや感謝について尋ねる
自分自身の強みは、案外自分では気づきにくいものです。他者からの視点やフィードバックは、客観的な強みを知る重要な手がかりとなります。
- 「チームメンバーやクライアントから、『〇〇さんのこういうところが助かる』あるいは『すごい』と言われたことはありますか? 具体的にどのような状況でしたか?」
- 「あなたが誰かを助けたり、貢献したことで、特に感謝された経験はありますか? それはどのようなことでしたか?」
他者からの評価を通じて、本人が当たり前だと思っている行動や能力が、実は周囲から高く評価されている強みであることに気づかせることができます。
3. 困難な状況や失敗経験から強みを探る
困難や失敗にどう向き合い、そこから何を学んだかという過程にも、その人の強みが隠されています。レジリエンスや問題解決能力、学習意欲といった強みは、逆境の中でこそ顕著に現れます。
- 「これまでに最も大きな失敗だと感じた経験は何ですか? その経験から何を学び、どのように立ち直りましたか?」
- 「予期せぬ問題が発生した際、あなたはどのように対応することが多いですか? どのようなことを意識して行動しますか?」
失敗談を話すことには抵抗を感じる人もいるため、心理的安全性が確保された関係性の中で、過去の経験として客観的に振り返るようなトーンで対話を進めることが重要です。
4. 興味や関心、情熱の源泉を探る
仕事そのものだけでなく、個人的な興味や関心、プライベートでの活動なども、その人の隠れた強みやポテンシャルを示唆していることがあります。
- 「仕事以外で、あなたが最も時間を費やしたり、情熱を注いでいることは何ですか? それはなぜですか?」
- 「最近、個人的に学んでいることや、新しく挑戦していることはありますか?」
これらの対話を通じて、その人の内面的なモチベーションの源泉や、主体的に学び、行動する姿勢といった強みを発見できることがあります。
5. ストレングスファインダー等のツールを対話のきっかけにする
ギャラップ社のストレングスファインダーやVIA強み診断などのツールは、個人の強みを特定する上で有効な手がかりとなります。ただし、ツールの結果を一方的に伝えるだけでなく、それを基にした対話を通じて、具体的な状況と紐づけながら深掘りすることが重要です。
- 「診断結果のこの強み(資質)について、ご自身ではどのように感じますか? どのような場面でその強みが活かせていると思いますか?」
- 「診断結果の中で、特に意外だと感じた強みはありますか? それはなぜですか?」
ツールはあくまで対話の出発点です。診断結果を鵜呑みにせず、本人の実感や具体的なエピソードと照らし合わせながら対話することで、より深く正確な強みの理解に繋がります。
見つけた強みをチームで活かす実践
メンバーから引き出した強みは、単に「知っている」だけでなく、チームの中で「活かす」ことが重要です。
1. 強みを本人にフィードバックし、認識させる
対話を通じて発見した強みを、具体的なエピソードと共に本人に伝えます。リーダーからの肯定的なフィードバックは、メンバーの自己認識を深め、自信を持って強みを発揮する後押しとなります。
- 「〇〇さんがプロジェクトで△△のタスクを進めてくれた時、課題の本質を素早く見抜く力が素晴らしいと感じました。あれはまさに〇〇さんの強みですね。」
2. チーム内での強み共有を促進する
チームメンバー同士が互いの強みを理解することも、効果的な協働には不可欠です。チームミーティングのアイスブレイクで互いの強みについて簡単に共有する時間を設けたり、プロジェクト開始時に各メンバーが貢献できる強みについて話し合ったりする機会を作ります。
3. 強みを活かせる役割やタスクのアサイン
メンバーの強みを理解したら、それを活かせる役割やタスクを積極的にアサインします。これは、メンバーのモチベーションを高めるだけでなく、チーム全体のパフォーマンスを最大化する上で最も直接的な方法です。タスクを依頼する際に、「このタスクはあなたの〇〇という強みが特に活かせると思うからお願いしたい」のように伝えることで、メンバーは期待されていること、自分の強みがチームに貢献できることを認識できます。
4. 強みをさらに伸ばすためのサポートと対話
発見された強みは、さらに磨くことでより大きな力になります。その強みをどうすればさらに伸ばせるか、どのような機会があれば活かせるかについて、メンバーと継続的に対話します。必要な研修や経験の機会を提供することも検討します。
まとめ:強みを活かす対話がインクルーシブなチームを創る
多様なチームにおいて、メンバー一人ひとりの強みを引き出し、それをチームの力として活用することは、インクルーシブなリーダーシップの中核をなす実践です。今回ご紹介したような具体的な対話テクニックを通じて、メンバーの内に秘められたポテンシャルを発見し、共有し、育成していくプロセスは、個々の成長を促すと同時に、チーム全体の心理的安全性、エンゲージメント、そしてパフォーマンスを着実に向上させていきます。
リーダーがメンバーの強みに意識的に目を向け、それを引き出すための対話を重ねることで、チームは「弱みを補完し合う集団」から「強みを掛け合わせ、新たな価値を創造する集団」へと変貌を遂げます。これは、多様なメンバーがそれぞれの違いを力に変え、チームの一員として心から貢献したいと感じるインクルーシブな環境を築く上で、不可欠なステップと言えるでしょう。
今日から、ぜひあなたのチームメンバーとの対話の中で、「この人の強みは何だろう? それはどうすればもっと活かせるだろう?」という問いを意識してみてください。